塀の外のマッサージ嬢 その2

うちのおフクロは、そのマッサージ店がひどく気に入ったようで、次の日も行こうと言った。
今日は2時間コースにした。
贅沢だ。日本では考えられない。
タイ式マッサージを1時間頼んだところで、料金は、うちの会社のアルバイトの時給より安い。
今日僕を担当することになったマッサージ嬢は、昨日と同じマッサージ嬢だった。
今日も屈託のない笑顔を見せた。
世間話ができるほど、僕のタイ語のレベルは高くない。
それでも嫌な表情を見せることもなく、片言のタイ語を聞いてくれた。
快適な時を過ごすことができた。
全身の力をかけるかのように、力強く揉んだり、押したり、引っ張ったり…
かなりの重労働だ。
相当に疲れるにちがいない。
袖口を少しまくった拍子に、彼女のややふくよかな二の腕が覗いた。
腕には一面の鮮やかな刺青があるのがわかる。
彼女の過去に何があったのだろうか。
無論、それを問うだけの度胸は、持ち合わせてはいない。
帰り際に彼女にメモを渡す。
マッサージの現場で想定されるいくつかの日本語をメモしていた。
「aomuke(仰向け)=นอนหงาย」
「utsubuse(うつぶせ)=นอนคว่ำ」
「itaidesuka(痛いですか)=เจ็บไหมคะ」
「ashi(脚)=ขา」
「senaka(背中)=หลัง」
「tatsu(立つ)=ยืน」
「suwaru(座る)=นั่ง」
「ichijikan(1時間)=หนึ่งชั่วโมง」
「nijikan(2時間)=สองชั่วโมง」
彼女の表情が明るくなったのがすぐにわかった。
しかしその表情は長くは続かない。
メモは、ほどなくして刑務官の手に渡った。
やはりここは管理された空間だ。
塀の中のルールが適用される。
たとえ紙片ひとつでも、個人的な物のやり取りは厳禁なのだ。
仮にチップをやろうとしても、それは入口近くに設置された募金箱に入れられることになる。
店を出たあとに考える。
彼女には頑張ってもらいたいと…
一流のマッサージ師になって、自立した生計を立ててもらいたいと…
สู้ๆนะ พยายามต่อไปนะ…
そして再び塀の中の暮らしに戻ることのないよう強く願った。


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