ボーカロイドと音読さん

数年前、タイから留学に来ていた女子学生が、日本でぜひコンサートにいきたいというアーティストがいると語ってくれました。
興味を持った僕が、「誰のコンサートなの?」と尋ねたところ、返ってきた答えは意外なものでした。
それが「初音ミク」だったのです。
当時の僕は、「初音ミク」なるアーティストは知りませんでした。
この「初音ミク」とは、楽器メーカーのヤマハが開発した音声合成システム「VOCALOID(ボーカロイド)」から生み出された架空のキャラクター。
16歳の女性バーチャルアイドルという設定だそうで。
メロディや歌詞を入力することで、合成音声による発声に加え、譜面どおりの音階を忠実に再現することができるというのですから驚きです。
日本が生み出した画期的な技術であることに間違いありません。
その画期的な技術から生まれたバーチャルのアイドルが、国内のみならず、広く東南アジアからのファンを呼び寄せているという事実に、さらに驚きを隠せませんでした。
PC上に入力した歌詞と音階を再現できるので、理論上はどんな世代の歌であっても、たとえ外国語の歌詞の歌であっても、自由自在に「歌う」ことができるのです。
このことについては率直に「スゴイ」としか言いようがありません。
しかし、この「初音ミク」なる人物は、実在する人物ではありません。
あくまでもバーチャルアイドルに過ぎません。
その「実在しない人物」をアイドルとして偶像化する発想が、ちょっと自分の理解を超越していました。
ファンのかたには大変失礼な言いかたかもしれませんが、この「初音ミク」の声と聴くと、いかにも機械が歌っているようにも聞こえます。
それでも、この画期的な技術が生み出したバーチャルアイドルに熱狂的な声援を送る。
それが「cool Japan」なのでしょうか。
複雑な気持ちになったのを今でも覚えています。

それからまた数年の時を経て、最近ある音声読み上げソフトの存在を知りました。それが「音読さん」です。(https://ondoku3.com/ja/)
この音読さんは、テキストボックスに読み上げたいテキストを貼り付けて、クリックするだけで、忠実にその音声を読み上げてくれます。
もちろんこれまでも、こういった音声読み上げソフトはいくつか存在していました。
しかしその多くは、アクセントや抑揚が不自然な、いかにも機械的な発声で、とても人間の声には程遠いものでした。
しかしこの音読さんは、ちょっと違います。
あたかも本物の人間の発声のような声で読み上げてくれます。
速度や声の高さを調整することもできます。
男性の声や女性の声を選ぶこともでき、早く読む遅く読むといったスピードの調整も簡単にできます。
おまけに、日本語のみならず英語や中国語など多言語に対応しています(最近タイ語版も登場しました!)。
インターネットが繋がっている環境であれば、どこでも使うことができます。
もちろんスマートフォンでも使えますので、外出先でも気軽に使えます。
また、読み上げた音声をMP3などのファイル形式でダウンロードすることができるので、パワーポイントや動画などに貼り付けることで、その音声を活用することが可能です。
何度か試してみて感じたことを挙げます。
句読点を普段の文章よりも、こころもち多めにすると自然な発声に近づくこと。
漢字で表記するものと、カナで表記するものでは、アクセントに若干の差異が生じることがあること。
読み上げのスピードは、ややゆっくりめにしておくと丁寧な感じに聞こえること。
音程については、やや低めにしておくと、ソフトな感じに聞こえること。
などなど…
いくつかのコツは要りますが、何度か試してみるうちに、お好みの音声に近づけることができます。
僕などはこの音読さんの声が気に入って、職場で使う研修用動画の説明用ナレーションに使ったほどでした。

こうした技術は、私たちの生活のいろいろな面で活用の途があります。
定型化した音声アナウンスなどを大量に生成し、館内放送などで活用することもできることでしょう。
視覚障碍者などへの音声ガイドとしても活用することもできるでしょう。
テクノロジーの進化によって、仕事の効率化を進めることもできることでしょう。
ゆくゆくは、外国人との交渉の場において、言葉の障壁を低くすることにも寄与するのではないかと感じます。
今後もこうした技術の進歩に目が離せないところです。