塀の外のマッサージ嬢 その1

その部屋は少し照明を落とした薄暗い部屋だった。
どこからかハーブの香りが漂う、ひんやりとした部屋だった。
まったく静かで落ち着いた雰囲気だった。
実に心地よい空間だった。
ここは北の都チェンマイ。
とあるマッサージ店のなかだった。
「でもしっかり見られているんだね」
「何が?」
「カメラだよ。監視カメラ。入ってからここに来るまで、気がついただけでも5台はあったと思う」
天井の隅に半円形のカメラがついているのがわかる。
隣にいたおフクロは気がついていない。
受付に制服姿で座っているのは刑務官なのだろう。
背後にあるいくつのもモニターは、それぞれの部屋の様子を捉えている。
隣でマッサージを受けているおフクロは、マッサージ嬢の話すタイ語がわからない。
「手をつかんで」
「仰向けに」
「座って」
など所々声をかけられているのだか、当然ながらリアクションがない。
「『仰向けになって』って言っているよ」
などと隣にいた僕が小声で言う。
一般のマッサージ店だったら、外国人観光客もよく立ち寄るだろうから、片言の英語を話すマッサージ師もいるだろう。
でもここはやはり一般のマッサージ店ではないのだ。
マッサージ師の共通項は、全員が見習いであること。
全員が女性であること。
そして、全員が過去に何らかの過ちを犯したことがあるということ。
この店の名は “Women’s Prison”。
服役中の女囚の職業訓練のための施設なのだ。
僕を担当したマッサージ嬢は、暗い素振りも見せずに、明るく笑う。
「お兄さん、少しタイ語がわかるんだね」

塀の外のマッサージ嬢 その2
https://ponce07.com/womens-prison02/


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