軌間 その1 「飛び地」の新幹線

九州の博多から鹿児島中央に直通の新幹線が全線開業したのは平成23年(2011年)のこと。
福岡から鹿児島への所要時間が圧倒的に短縮されたばかりでなく、山陽新幹線の乗り入れも実現している。
博多駅 – 鹿児島中央駅間が最短で1時間16分に、博多駅 – 熊本駅間が最短で32分という速さである。
朝の7時に鹿児島を出ても、福岡市内での9時の会議に十分間に合うほどになった。
ところがもう一つのルートである西九州ルート(長崎ルート)の建設は困難な状況になっている。
というのも西九州ルート(長崎ルート)は当初、フリーゲージトレインで博多駅から佐賀県の新鳥栖まで九州新幹線鹿児島ルートを走り、武雄温泉まで在来線を走行、武雄温泉から長崎までは新設する新幹線の線路を通す計画だった。
フリーゲージトレインとは、軌間可変電車とも呼ばれ、これは主に標準軌(1,435 mm)と狭軌(1,067 mm)の両方の線路上を走行することのできる車両で、現在開発の途上にある。
しかし、そのフリーゲージトレインの開発が難航した。
西九州ルート(長崎ルート)向けの車両耐久走行試験は平成26年(2014年)10月から進められたが、車軸付近にひびや摩耗が発見され、試験中断に追い込まれた。
そして、ついに西九州ルート(長崎ルート)でのフリーゲージ計画は断念されるに至った。
しかし武雄温泉から長崎まで新設工事は、標準軌(新幹線の軌間)で工事が既に始まっている。
その結果、武雄温泉駅で乗り換えを必要とする「リレー方式」が採用される結果になってしまった。
直通ではない、いわゆる「飛び地」の新幹線である。
どうしてこのような「飛び地」が出来あがったのだろうか。
それは、言うまでもなく軌間の違いによる。
そもそも、なぜこのように軌間に違いがあるのだろうか。
軌間とは2本のレールの内側の幅のことをいう。
同じJR線でも在来線の1,067 mm、新幹線の1,435 mmと違いがある。
ここで、この軌間の歴史を少しだけ振り返ってみたい。

建設中の九州新幹線西九州ルート(長崎市)
日本で最初に開業した鉄道は明治5年(1872年)のことである。
開業した区間は、新橋駅 – 横浜駅間であった。
その時に採用された軌間は、標準軌 (1,435 mm) より狭い狭軌の1,067 mmだった。
この標準軌の起源は、英国の炭鉱で使われていた鉄道馬車の軌間と言われている。
その軌間が4フィート8.5インチ(1,435 mm)だった。
のちにジョージ・スティーヴンソンがこの炭鉱鉄道のために蒸気機関車を製造した。
その後はこのときに使われた機関車と同じ設計で機関車が作られたことから、英国各地で急速に普及した鉄道は、4フィート8.5インチの軌間が採用されたことになる。
こうして鉄道の普及は4フィート8.5インチの軌間の普及を意味しており、これが標準軌 と呼ばれるようになる。
一方で、狭軌(Narrow gauge)と呼ばれていた1,067mm(3フィート6インチ)のゲージも普及していた。
経済性の面で優位と考えられたからだ。
同じ大英帝国の領土でも、南アフリカやニュージーランドなどでは、この1,067 mmの狭軌が敷かれている。
またマレー半島などではこの1,067 mmの狭軌よりさらに狭いメーターゲージと呼ばれる1,000mmの軌間を採用している地方もあった。
当時の日本の財政状況を考えると、建設コストが高い標準軌の採用は無理があった。
軌間が広いほど大きな列車を速く安定的に走らせることができるが、建設費がかさむ。
特に軌間が大きいほどカーブを大きく取る必要があり、山地の多い日本では標準軌は経費が掛かりすぎてしまう。
車両が大きければ、トンネル掘削費用も大きく変わってくる。
結果的に、狭軌の1,067 mmが日本の鉄道の標準となったものの、その後1,435 mm の標準軌へ軌間を変更しようとするいわゆる改軌論争が何度かあった。
しかし財政難を理由に、1,435 mm軌間への改軌が実現することはなかった。
その一方で都市部の路面電車などでは、1,435 mm軌間を採用する民間会社も現れた。
日本で最初に1,435 mm軌間を採用した民間鉄道は、大師電気鉄道(現在の京浜急行電鉄大師線)である。
これは将来を見据えた取り組みとも言えるもので、一説によると国鉄が1,435 mm軌間へ改軌するであろうと見越してのこととも言われている。
結局は国鉄の改軌が行われなかったが、路面電車や電気鉄道、地下鉄では1,435mm軌間が普及した。
こうして、日本の鉄道は、主に1,067mmの狭軌と民間鉄道の一部で採用された1,435mmの標準軌との2軌間が併存することになる。

軌間 その2 弾丸列車計画と新幹線
https://ponce07.com/track-gauge-02/

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