面識こそありませんが、尊敬してやまない先生の一人として挙げられるのが、岡滋訓先生です。
僕がタイ語の勉強を始めることになって、全くのビギナーだったときに、初めて手にした辞書が、岡先生の著した、この「タイ日辞典」でした。
しばらくはこの辞書を座右の書のようにいつも携帯していたのを思い出します。
外国語の読解をするにあたっては、基本書と並んで辞書は必要不可欠なものです。
文字も知らない状態で、どこから着手すればいいのでしょうか?
まずは文字を覚えていくために、実際に辞書の中で使われている言葉を、手で紙に書くことで文字のイメージをつかんでいく方法を取りました。
それは単語であったり、熟語であったり、短い文章であったり…
この初めの頃はとにかく毎日書きまくったものでした。
ある意味原始的でスポコン的なこの方法。
異論はあるかもしれませんが、初期の段階では良い方法だったと思います。
アルファベットや漢字とはまったく異なる文字です。
頭の中にイメージができあがっていないと、アプリなどの単語帳を見ても、なかなか覚えられないものです。
タイ語は、英語やハングルなどと違い、分かち書きをしません。
ある程度知っている単語の数がないと、単語と単語の境界がわからないので、思うように辞書を引くこともできないのです。
始めから終わりまで繋がっている文字の羅列のどこに切れ目が入るのか?
知っている単語力が乏しいと、切れ目すらわからないのです。
文字のイメージを定着させること。基本的な単語を早く覚えること。
始めたばかりのころは、この二点を特に意識していました。
「足し算のタイ語」でも書きましたが、タイ語は一つ一つの音節が単語であり、これらがつながって熟語になって、さらにそれらが並べられて文章になっていきます。
つながりを意識して辞書を使います。
事例で挙げた น้ำが「水」 ตาが「目」。
よってน้ำตาは「涙」になります。
辞書で「น้ำ」を引くと、「น้ำตา」もちろん出ています。
今度は「ตา」を引きます。
すると「ตา」の項にも「น้ำตา」が出ています。
両方引くことで双方の意味の確認ができます。
岡先生の「タイ日辞典」は、このような作りになっているので、合成語(熟語)のときは、両方の項目を引くようにしました。
ひと手間かかりますが、初めのうちはこうして意味をとるように心がけるのが良いと思います。
「ตา」を引くと、今度は「目」に関係する言葉がいろいろと出てきます。
กระจก〈ガラス〉+ ตา = กระจกตา角膜
แก้ว〈宝石、ガラス〉+ ตา = แก้วตา 瞳(ひとみ)
ขน〈毛〉+ ตา = ขนตา まつ毛
ขี้〈糞、カス〉+ ตา = ขี้ตา 目ヤニ
ปลา〈魚〉+ ตา +เดียว〈一つ〉= ปลาตาเดียว 鰈(かれい)
เปลือก〈皮、殻〉+ ตา = เปลือกตา まぶた
แว่น〈眼鏡〉+ ตา = แว่นตา 眼鏡
สาย〈筋、線〉+ ตา = สายตา 視線、視力
สายตา+ ยาว〈長い〉= สายตายาว 遠視
สายตา+ สั้น〈短い〉= สายตาสั้น 近視
หลบ〈避ける〉+ ตา = หลบตา 目をそらす
…といった具合です。
こうして辞書のあちこちを見ることで、関連する単語を増やしつつ、文字のイメージを定着させていったのです。
いまでは語彙数も増えて、この「タイ日辞典」よりも、語数の多い別の辞書を使う機会が多くなりました。
しかし、この古びて黒くなった「タイ日辞典」見るたびに、苦労した当時のことを思い出します。