意思疎通の不便さでは大いに苦労させられた。
難解な発音のタイ語を上手く使うことができない。
2,3回言って理解してもらえればそれは良い方。
上手く言うことができず紙に書いて説明したりもした。
それでも病院のスタッフは、いやな表情を見せることなく、こちらの下手なタイ語に付き合ってくれた。
「申し訳ありません」「お手数をおかけします」
そんな言葉を連発していた。
とは言え片言でもわかれば、まだましかもしれない。
うちのおフクロにしたら全くわからないのだから。
病院スタッフと僕の会話内容がわからないから、一件一件が不安に感じるのだ。
おフクロから聞かれる。
「『ありがとう』ってタイ語で何て言うんだい」
「コープクンカーっていうんだけれど発音難しいからうまく伝わらないかも。そんな時は、両手を前に合わせて拝むポーズをとって『ありがとう』って言えばわかってもらえるよ。日本語の『ありがとう』の意味は、普通のタイ人なら誰でも知っているから」
一回だけ言われたことがあった。
ベテランの看護師の女性だった。
「あなたバンコクに住んでいるの?」
どうやら家族連れでバカンスに来た駐在員と思ったのだろう。
「いえ…僕は日本の九州というところに住んでいます」
「クラビーに来たのはただの観光なんです」
「母親はタイ語が全く分かりません。もし僕が席を外しているときに伝えたいことがあったら、これを使ってください。ご迷惑かけます。」
小さなタイ語の辞書をテーブルに置いた。
直後にきっぱりと言われた。
「あんたはただの観光客ではない。観光客なら辞書なんか使わない」
深く頭を下げた。
ありがたかったのを覚えている。
白い道 その13
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