救急車がクラビーの病院に着いたのは、深夜だった。
時計の針は午前0時に近づいていた。
病院のスタッフが、慌ただしく準備を始めた。
数々の機器類や酸素ボンベが運び込まれる。
看護師や医師のほかに、つなぎ服姿の救急隊員の姿も見えた。
いまからおよそ3時間の移動が始まる。
クラビー県からプーケット県への移動。
手術にあたる担当の専門医は、バンコクから来るという。
タイの地名を問われても、地理に詳しいわけではないので、位置関係がわかりにくかった。
しかし広範囲の移動であるとこは容易に想像できる。
日本で例えて言えば、五島列島のような離島に遊びに行って長崎に帰って来て、そこで突然発病。
佐賀の病院に行かず、福岡の病院に搬送される。
担当の専門医が東京から飛行機で駆けつける。
やや大袈裟だが、こんな感覚に近い。
事実、クラビーからプーケットまでの距離は150キロを越える。
またバンコクからプーケットまでは、空路で1時間20分かかる。
とにもかくにも、容体の安定しない親父をプーケットまで無事に移動させること。
このことだけを考えた。
途中で急変しないことをただ祈るのみだった。
救急車に同乗できない僕らは、別のクルマで移動する。
この時のクルマもやはりタクシーではなかった。
一般の乗用車だった。
病院の関係者から依頼されたのだろう。
実費相当の謝礼で運転を依頼した。
白い道 その10
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