「ไม่เป็นไร(気にしない)」の文化 その2

翌朝早く起きて、探し回った。
ホテルの庭や廊下、フロント辺りを探し回った。
昨日夕食をとった安食堂へも行ってみた。
むろん、下を向いたまま路上を見ながら、探し回った。
歩き回って見たのだが、キーは一向に見当たらない。
親父も心配してくれて、鍵探しに加勢した。
ところがやはりキーは出てこなかった。
お寺の境内はもとより、路上も丁寧に掃除されている。
日本人が東南アジアの中で、とりわけタイを好む人が多い理由のひとつに、こうしたタイ人の清潔感を挙げる人は多い。
街は清潔で、清々しい朝である。
ところが今朝に限っては、気分が晴れることはなかった。
朝食のとき、従業員の女性に、昨晩遅くに手を煩わせたことについて詫びた。
「ไม่เป็นไรค่ะ (お気になさらないで)」の声が聞こえた。
キーの紛失については、なかなか切り出せなかった。
「弁償しなければ」
「いくらかかるのか」
「錠前全体を取り替えるなら経費は相当なものだろう」
「足りないなら両替するか」
いろいろと考えが回ってきた。
意を決して切り出す。
「実は部屋の鍵を失くしたんです」
「部屋のなかも、辺りも探し回ったのですが見つかりません」
「申し訳ございません」
「弁償ですよね」
片言のタイ語で尋ねた。
従業員の女性は
「ええ、まぁ…」
とだけ小声で言った。
いくらかかるのだろうか?
ひどく不安になったが、それ以上聞く勇気はなかった。
チェックアウトの時に出された請求明細を見て驚いた。
明細の中に“key”の文字を見つけることができたのだが、記載されていた金額はたったの60バーツだったのだ。
これではスペアキーを作る実費程度にしかならないのではないか?
錠前ごと変える必要はないのか?
そんな程度でいいのか?
これもไม่เป็นไรマイペンライなのか??
いまとなっては笑い話でしかない。
この一件はタイ人の気質を知るきっかけになった。
寛容な気質と言われることも多い彼ら。
ちょっとした失敗で思い悩んだことが、滑稽に感じられた。
十数個の単語覚えるよりも、もっと深い部分を知ったような気さえした。
「ไม่เป็นไร(気にしない)」の文化だった。

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