クラビー県の私立病院。
緊急治療室で診療にあたったのは、やや年配の医師だった。
背後からはっきりと聞こえた。
「オトウサン、心臓危ないね」
日本語だった。
その医師は若い頃に東京に留学した経験があると言った。
専門は心臓外科だという。
渡りに舟とはこのことか。
幸運に感謝するのみだった。
病状は不安定だった。
心臓は停止と蘇生を繰り返した。
全身から延びる電気コードはモニターに繋がっている
モニターに映し出されるパルスは、止まったり動いたりを繰り返す。
全身の色も目まぐるしく変化する。
鬱血したり蒼白になったりを繰り返した。
うわ言を言っているが、何を言っているのかよく聞き取れない。
「心臓の動くチカラ弱い」
「機械で助ける必要ある」
医師の言葉で理解した。
直ちにペースメーカーを埋め込む必要があるという。
緊急の大手術になる。
それは、このクラビー県の小さな病院では不可能。
医師は、手術可能な受け入れ先の病院探しを始めていた。
隣県のスラートターニー県にある県立病院か、プーケット県にある私立病院か。
2か所の候補地が挙げられた。