白い道 その2

ここクラビータウンは朝から快晴で、今日も暑くなりそうだった。
カレンダーは1月1日となっているが、ここにいるとその感覚がない。
ごく普通の夏の一日だった。
朝市に出掛け、そこで朝食を済ませて、ホテルに戻った。
1階のフロアは開放的な造りで、心地よい風が吹き込んでくる空間だった。
フロントのソファに座っていたときに、先に部屋に戻っていた娘が駆けつけて言った。
「おじいちゃんの様子がおかしい。すぐに戻って来て」

心地よい気分が一転した。
親父が倒れていた。
それも意識がなく、痙攣していた。
全身蒼白になっていたうえに、額の傷からは血が流れていた。
意識を失ったときに転倒して切り傷ができたのだろう。
ユニットバスやベッドのシーツには、血痕が点々と散っていた。
何が起きたのか全然わからないが、異常事態であることは間違いない。

廊下にいたベッドメイクの従業員に片言のタイ語で叫んでいた。
「病院に行きたい。救急車を呼んでくれないか!」
「どうしたんですか」
「事故ですか」
部屋の中の異変に気付いた従業員の女性たちの悲鳴が聞こえてきた。
「わからない。とにかく救急車を呼んでくれ」

予定としては、今日の午後の便でバンコクに戻ることになっていたが、それどころではなくなってしまった。
直感した。「このままでは帰国できない」
カミさんと娘には予定通り午後便でバンコクへ向かい、翌日に帰国するよう告げた。
日本での連絡要員が必要になると考えたのだ。

やがて騒ぎを聞きつけたホテルのマスターが駆けつけた。
部屋は3階でエレベータはないところだったが、マスターは親父を背負って1階に下りて行った。
マスターの男は、身体はさほど大きくはなかったが、その腕力と迅速さに驚いた。

何が起こったのだろうか。
親父は朝市には出かけていない。
おフクロの言によると
「疲れたから行かない。寝ている」と断ったという。
すでに体調に異変が起きていたのだろうか。
昨日の晩、クラビータウンの夜市に出掛けたが、その時は異常な様子はなかったのだが…

ホテルのマスターはワゴン車を用意してくれた。
後部座席に手早く親父を乗せ、僕らもすぐに乗り込んだ。
自らハンドルを握り、病院に急行した。
何という名前の病院か。
「International」の文字が目に入ってきた。

白い道 その3
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