かつて京都にK君という野球少年がいた。
才能あふれる彼は、高校時代に大活躍の快投を見せる。
全国大会で準優勝し、評価は上昇し、全国から注目を集める存在となった。
ドラフトでは4球団から一位指名を受け、競合の末、関西のあるチームに入団する。
意気揚々と入った世界で、素晴らしいプロ生活が待っていると思われた。
しかし、現実は甘くなかった。
素質豊かな彼の周囲には多くのコーチが集まった。
コーチは彼のために、投球フォームの修正を提言する。
助言してくるコーチは一人や二人ではない。
助言を受けるたびに次々とフォームを変えていった。
真面目でありすぎる彼は、コーチたちの言葉を忠実に守ろうとし、自分なりのスタイルを確立できなくなってしまった。
結果として、高校時代の華麗だったフォームは見られなくなり、まっすぐに投げることさえもできなくなってしまう。
二軍では、1試合6暴投や1試合15与四球といった不名誉な記録を残してしまう。
自分にまったく自身が持てなくなってしまう。
結局プロでの7年間は全く芽が出ず、25歳の若さで、1勝も挙げることなく戦力外通告を受けることとなる。

彼のどこがいけなかったのか。
それは自己流を確立できなかったことだった。
努力は重要だが、その努力を続けるためには、自分なりのスタイルが確立されている必要がある。
コーチの助言は大切だが、その助言が万人に通用するわけではない。
ひとはそれぞれのやり方があり、自己流を貫き通した選手の方が成功することも多いのだ。
これはスポーツだけでなく、学問や芸術の道でも同じだ。
この参考書はAさんにとっては非常に役に立ったが、Bさんにとっては使い物にならなかったとか、あるいは、Cさんがすすめてくれたこの学習塾は、Dさんにはまったく合わなかったとか。
このような話は、枚挙にいとまがない。
偉大な業績や素晴らしい結果を打ち立てるためには、自信を持って自己流を確立させることが重要だ。
自信を基礎に、自分に合った努力の方法を見つける。
その自分に合った努力から生まれた結果に、さらに自信を持つ。
このサイクルが大事なのだ。

ちなみに現在、あのK君はどうなったのだろうか。
彼は母校の高校で、コーチとして活躍しているという。
自分がかつてフォーム改造で苦しんだことを思い出し、選手たちには持論を押しつけず、それぞれの特性に合わせた指導をしている。
プロでの7年間の二軍生活で、開花する選手とそうでない選手を目の当たりにしていたことから、選手を観察する能力が鍛えられたという。
「個人に合った指導をしてくれるので、安心感がある」と若い選手たちからは評判を得ているそうだ。
桜の咲く季節。
多く若者が新入学生や新社会人として新たなスタートを切る季節になった。
しかし、彼らがみな順風満帆の学生生活や社会人生活を送ることができるかと言えば、決してそうではない。
挫折や失敗はつきものだ。
それらを乗り越えることができる者は、自己流を信じ、自分の道を貫く勇気を持つ者たちなのだ。
自分らしさを大切にし、自信を持って努力を続けることが、成功への鍵を握るのかもしれない。

