先月、原因のよく分からない高熱を出して、入院することになった。
発熱は39度を超えた。
ところが、熱が高いこと以外には、これといった目立った症状がなかった。
咳が出るわけでもない。
のどが痛いわけでもない。
ただ、とにかく熱だけが高いのである。
僕はもともと、めったに病院へ行かない。
多少の体調不良なら、「そのうち治るだろう」と考えてしまう。
しかし、今回は何日たっても熱が下がらなかった。
さすがにこれは普通ではないと思い、病院へ行ったところ、「不明熱」と診断され、そのまま入院することになった。
検査の結果、風邪やインフルエンザではなかった。
新型コロナウイルスでもなかった。
医師は血液検査などを行い、発熱の原因を詳しく調べてくれたが、結局、はっきりした原因は分からなかった。
おそらく、何らかのウイルスが体内に入り、それに対して身体の免疫が反応したのだろうということだった。
ウイルスは非常に種類が多い。
そのすべてを調べて、「このウイルスが原因だ」と特定するのは簡単ではない。
結局、一週間以上続いた高熱は、時間がたつにつれて少しずつ下がっていった。
今回のことで改めて感じたのは、高熱というものは、薬を飲めばすぐに解決するとは限らないということである。
そもそも、なぜ病気になると熱が出るのだろうか。
ウイルスや細菌などが体内に入ると、身体の免疫システムがそれを見つける。
そして、脳にある体温を調節する場所に「体温を上げろ」という指令が伝わる。
すると身体は体温を上げ、病原体と戦いやすい状態を作ろうとする。
つまり、発熱は単なる「身体の故障」ではない。
身体が病原体と戦うために起こしている、防御反応の一つなのである。
だからといって、39度を超えるような高熱を我慢すればいい、という話ではない。
高熱で食事ができなかったり、水分が取れなかったり、体力が大きく失われたりする場合には、医師の判断のもとで熱を下げることも必要になる。
ただし、解熱鎮痛剤は熱や痛みを一時的にやわらげるものであって、発熱の原因そのものを消してしまう薬ではない。
結局のところ、身体が病気と戦っている間は、十分に休み、必要な水分や栄養を取りながら、回復するのを待つしかない場合も多い。
「風邪を一発で治す薬はない」とよく言われるが、今回の入院で、その意味をあらためて実感した。
考えてみれば、これは今に始まったことではない。
僕は若いころ、いわゆるバックパッカーとして海外を旅行していた。
今から30年以上前、学生時代に中国の北京を旅行したことがある。
北京の冬は、とにかく寒かった。
東京の冬とは比べものにならないような寒さだった。
いま思えば、防寒対策が十分ではなかったのだろう。
旅行中に風邪をひき、それをこじらせてしまった。
そして、かなりの高熱が出た。
海外旅行中に高熱を出すというのは、かなり心細いものである。
日本でなら、具合が悪くなれば家に帰ることもできるし、いつもの病院へ行くこともできる。
しかし外国では、勝手がまったく違う。
どこに病院があるのかも分からない。
言葉も十分に通じない。
何か重大な病気だったらどうしよう、という不安もある。
それでも、できることは限られている。
水分を取る。
できる範囲で栄養を取る。
そして、とにかく寝る。
熱が下がるまで、身体を休ませるのである。
これも30年以上前の話だが、トルコのイスタンブールで、ある大学生の旅行者から興味深い話を聞いたことがある。
彼は東ヨーロッパを旅行している途中で風邪をひき、高熱を出してしまったという。
そこで彼が取った方法は、とても単純なものだった。
持っていた服を全部着こんで、とにかく寝たのである。
眠っている間に大量の汗をかく。
そして、起きたら水分を取り、また寝る。
それを何日か繰り返しているうちに、少しずつ熱が下がってきたという。
彼は、「風邪をひいたら、たくさん食べて、たくさん寝て、たくさん汗をかく。それが一番だ」と話していた。
もちろん、これはあくまで当時の旅行者の経験談であり、現在の医学的な治療法を否定する話ではない。
高熱が続く場合や、意識がおかしい、呼吸が苦しい、水分が取れないなどの症状がある場合には、無理をせず医療機関に相談するべきである。
それでも、バックパッカーたちの話には、旅の現実がよく表れていると思う。
旅先では、何かあってもすぐに病院へ行けるとは限らない。
だからこそ、自分の身体を休ませ、水分や食事を取り、回復するまでじっと待つという経験を、多くの旅人がしてきたのである。
タイを旅行したときには、コンビニエンスストアで薬を買ったこともある。
タイでは、セブンイレブンなどのコンビニで、簡単な医薬品を購入できる。
僕が買ったのは風邪薬ではなく、食べ過ぎによる胃もたれの薬だったが、旅行中だったのでとても助かった記憶がある。
https://ponce07.com/be-careful-not-to-eat-too-much/
タイでは、解熱鎮痛剤や胃腸薬、下痢止めなど、旅行者にとって便利な薬が小分けで売られている。
タイ人の中には、少しくらい体調を崩しただけなら、すぐに病院へ行かず、市販の薬を使ってしばらく様子を見る人も多いという。
もちろん、症状が重ければ病院へ行く必要がある。
しかし、タイでは私立病院の医療費が高かったり、公立病院では患者が多く、長時間待たされたりすることもある。
そうした事情もあり、まず自分でできることをして、それでも治らなければ病院へ行くという考え方が生まれているのだろう。
バックパッカーの旅も、これと少し似ている。
旅先で病気になるのは、決して楽しい経験ではない。
高熱が出れば不安になる。
食欲もなくなる。
身体は重い。
知らない町の安宿で一人で寝ていると、普段なら気にならないことまで心配になってくる。
しかし、そんな経験も含めて旅なのだと思う。
旅には、美しい景色を見ることや、おいしいものを食べることだけではない。
道に迷ったり、だまされたり、荷物をなくしたり、体調を崩したりすることもある。
そして、そのたびに「どうすればこの状況を乗り越えられるか」を自分で考える。
若いころの僕は、旅先で高熱を出したとき、「もう二度とこんな思いはしたくない」と思った。
しかし、何とか乗り越えて日本へ帰ってくると、それもまた旅の思い出になっていた。
今回、50歳代になって原因不明の高熱で入院した。
さすがに今回は、若いころのように無理をするわけにはいかない。
身体が回復するまで、じっと休むしかなかった。
しかし、ベッドの上で過去の旅を思い出しながら、ふと気づいた。
旅人にとって大切なのは、病気にならないことではない。
病気になったとき、困ったとき、予定どおりにいかなくなったときに、どうやってそれを乗り越えるかということなのではないか。
旅先での病気はつらい。
けれども、それを乗り越えた経験は、次の旅への自信になる。
そして、それは旅だけでなく、人生そのものにも通じる。
若い旅人だったころ、熱にうなされながら一晩を過ごした経験も、今となっては自分の中に残っている。
旅とは、楽しい思い出を集めるだけのものではない。
思いどおりにならない出来事を一つずつ乗り越え、その経験を自分の力に変えていくことでもある。
そう考えると、旅先での病気さえも、旅人を少しだけ強くしてくれる「旅の授業」だったのかもしれない。