江戸時代には、さまざまな交通が整備され、なかでも東海道や中山道をはじめとする五街道は有名です。
五街道以外にも、脇街道と呼ばれた主要道路がいくつかありました。
長崎街道もそのひとつです。
長崎街道は肥前国長崎(現在の長崎市)から豊前国小倉(現在の北九州市小倉北区)を結ぶ約57里(約228km)を結ぶ街道で、途中には25の宿場が置かれていました。
長崎と小倉をできるだけ最短距離で結ぶため直線状に整備されたことから、山を越える道程が多い、険しい街道でした。
しかし街道は九州諸大名の参勤交代のほか、長崎奉行や西国筋郡代の交代、さらにはオランダ人や中国人の江戸参府などさまざまな人で賑わい、また西洋や中国からもたらされた交易品や献上品の運搬にも用いられました。
この長崎街道が「シュガーロード」と呼ばれるようになったのは、海外からの貿易によって長崎港を通じて砂糖が輸入されたことによります。
日本に最初に来航した西洋の国であるポルトガル、そしてポルトガルとの交易が禁じられた後はオランダと中国から、砂糖や南蛮菓子が大量に輸入されました。
西洋や中国からもたらされた砂糖や南蛮菓子は、この街道を通じて広まり、日本の菓子文化に大きな影響を与えました。
街道沿いには塩田津(佐賀県)など、砂糖問屋や菓子屋が軒を連ねた宿場町が残っているほか、各地で個性豊かな郷土菓子が作られており、多くの人々に親しまれています。
「シュガーロード」という呼称は、シルクロードになぞらえて名付けられた愛称で、砂糖文化の道を象徴的に表したものです。
1571年に長崎港が開港され、ポルトガルとの貿易が始まりました。
これにより砂糖が本格的に日本へ流入することになります。
当時、砂糖は高級品であり、薬としても珍重されていましたが、次第に食文化の中心へと変化します。
長崎に陸揚げされた砂糖は、幕府の貿易機関である長崎会所がすべてを買い取り、国内の商人に売り渡され、おもに大坂に運ばれることになります。
しかし、すべての砂糖が大坂などに運ばれたかというと決してそうではありませんでした。
長崎の町には正規の貿易ルートとは別の、さまざまな形で砂糖が出回ることになります。
オランダ商館員や中国人商人たちのなかには、花街である丸山の遊女に砂糖を贈る者がいました。
こうした砂糖は、「貰(もらい)砂糖」と呼ばれていました。
また、「盈(こぼれ)物砂糖」と呼ばれる習慣も存在していました。
この「盈物砂糖」とは、もともとは積み荷の砂糖が荷崩れして、陸揚げの対象にできなかった砂糖のことを意味していたのですが、その後、荷役にあたる日雇い人足たちが荷役のときに砂糖をこっそり抜き取ることを防ぐ目的で、あらかじめ「盈物砂糖」という名目で人足たちに分け与えられるようになったのです。
こうした「貰砂糖」や「盈物砂糖」は転売して換金されることになります。
このようにして長崎市中には大量の砂糖が流入し、この砂糖がさらに街道の街に流通していき、砂糖は金銭としての役割も担うようになったのです。
この時代に作られるようになった菓子としてはカステラ、金平糖、ボーロなどがあります。
カステラは、鶏卵、砂糖、水飴、小麦粉などを混ぜて焼いた日本の菓子で、ポルトガルから伝わった南蛮菓子を元に日本で独自に発展しました。
長崎が発祥の地とされ、現在では多くの老舗店が存在します。
金平糖は、ポルトガル語の「Confeito(コンフェイト)」に由来する砂糖菓子で、1543年にポルトガルから日本に伝わりました。
当初は球形でしたが、日本の職人の技術や創意工夫によって現在の角のある形になりました。
回転する釜に糖蜜を何度もかけながら砂糖結晶を大きくしていく伝統的な方法で作られており、様々な味や色合いのものがあります。
ボーロは、主に小麦粉やばれいしょでん粉などを主原料とする焼き菓子の総称です。
元々はポルトガルから伝わった南蛮菓子で、ポルトガル語で「ケーキ」や「焼き菓子全般」を意味する「bolo」が語源です。
これらのほかに有名な菓子としては小城羊羹が挙げられます。
長崎街道の中途に位置する小城は、名水と言われる清水川の清涼な水があり、また当時の佐賀平野は小豆の産地でもあったことなどから、主原料である「砂糖」「水」「小豆」が調達しやすかったという地理的に有利な条件がありました。
この条件に加え小城は城下町で茶道の文化が発達していたことから、お茶請けとして羊羹が受け入れられる下地があったことも、この地で羊羹作りが盛んになった理由と言われています。
長崎で陸揚げされた砂糖は、長崎の地や長崎街道沿いの街々で、このような豊かで個性的な菓子の文化を築いていったのです。
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