「水に魚あり、田に稲あり」という言葉は、タイ語で
ในน้ำมีปลา ในนามีข้าว(Nai nām mī plā nai nā mī khāo)と言います。
タイではとてもよく知られた言葉で、「この国は自然に恵まれ、食べ物に困ることがない」という意味を持っています。
単語の意味をひとつひとつ見ていくと、このようになります。
ในน้ำ : 水(の中)に
มี : ある、いる
ปลา : 魚
ในนา : 田(の中)に
ข้าว : 米、稲
直訳すると「水の中には魚がいて、田んぼの中には米がある」という、ごく素朴な表現です。
しかし、その背景には、自然と共に生きてきたタイの人々の暮らしや、国の理想の姿が込められています。
この言葉は、13世紀のスコータイ王朝時代に作られたラムカムヘン王の石碑に刻まれており、タイの歴史を語るうえで欠かせない言葉とされています。
古くから続くタイの稲作と人々の暮らし
この言葉が示すとおり、タイでは古くから米が主食であり、稲作は生活の中心でした。
人々は川や雨の恵みを受けながら田を耕し、米を育てて暮らしてきました。
稲作が安定することは、食料の安定につながり、社会の安定にもつながります。
スコータイ王朝の時代には、すでに水路や灌漑の工夫が行われていたと考えられています。
川の水を上手に利用することで、田んぼに水を引き、安定して米を作る仕組みが整えられていました。
こうした積み重ねが、現在のタイの農業の基礎になっています。
タイが米作りに向いている理由
タイが稲作に適している最大の理由は、やはり気候です。
タイは一年を通して暖かく、平均気温は26〜28度ほどあります。
日本のように冬に雪が降ったり、気温が大きく下がったりすることがないため、稲が育ちやすい環境が整っています。
また、雨季と乾季がはっきりしていることも特徴です。
雨季には十分な雨が降り、田んぼに水が行き渡ります。
乾季には収穫や乾燥作業がしやすくなります。
この自然のリズムが、米作りにとって理想的な環境を生み出しています。
さらに、チャオプラヤ川やメコン川といった大きな川の周辺には、栄養分を多く含んだ平野が広がっています。
こうした土地は米作りにとても向いており、昔から「穀倉地帯」として発展してきました。
日本と比べて見えるタイの稲作の特徴
日本とタイの稲作を比べてみると、その違いがよく分かります。
日本では、春に田植えをして、秋に収穫する年1回の稲作が基本です。
冬は寒いため、稲を育てることができません。
一方、タイでは寒い季節がほとんどないため、地域によっては年に2回、あるいは3回も米を収穫することができます。
これを二期作、三期作と呼びます。
作れる回数が多い分、生産量も多くなります。
また、日本は山が多く、田んぼの面積が限られていますが、タイは平らな土地が広く、大きな農地で米を作ることができます。
そのため、タイでは大量生産がしやすく、世界でも有数の米輸出国となっています。
タイで日本米が作られるようになった理由
近年、タイでは日本のうるち米、いわゆるジャポニカ米の栽培が増えています。
その背景には、日本食ブームがあります。
寿司、弁当、定食など、日本食はタイでもすっかり定着しました。
日本食には、粘りがあり、ほんのり甘い日本米がよく合います。
そのため、レストランや家庭で日本米を求める声が増えてきました。
さらに、バンコクを中心に多くの日本人が暮らしており、日本と同じ味のご飯を求める需要も安定しています。
日本から米を輸入することもできますが、高い関税がかかるため価格が上がってしまいます。
そこで、タイ国内で日本米を作る方が、価格を抑えられるという利点があります。
タイ産日本米の味と品質
タイで作られている日本米は、「コシヒカリ」「ササニシキ」「あきたこまち」など、日本でおなじみの品種が中心です。
コシヒカリは粘りが強く、冷めても美味しいため、寿司や丼物によく使われます。
ササニシキはあっさりとした味わいで、和食全般に合います。
現地で改良された品種もあり、暑さや病気に強い工夫がされています。
玄米を低温で保管し、注文に応じて精米するなど、日本式の品質管理を取り入れている生産者もいます。
そのため、「日本産とほとんど変わらない」と感じる人も少なくありません。
タイ人の食文化の変化とこれから
最近では、タイ人の間でも粘りのある米を好む人が増えてきました。
これまで主流だったインディカ米だけでなく、日本米のような食感を楽しむ人が増えているのです。
食の多様化が進み、選択肢が広がっていると言えるでしょう。
今後は、タイ産日本米がひとつのブランドとして定着し、外食産業や海外への輸出に広がっていく可能性もあります。
日本の米作りの技術と、タイの自然条件が合わさることで、新しい価値が生まれつつあります。
米が育ててきたタイの自然の豊かさ
「水に魚あり、田に稲あり」という言葉は、タイの自然の豊かさと、人々の暮らしの安定を象徴しています。
温暖な気候と肥沃な土地に支えられた稲作は、昔から現在までタイ社会の基盤であり続けてきました。
近年では日本米の栽培も広がり、食文化はさらに多様化しています。
この言葉が示す豊かさは、形を変えながら、今もタイの中で生き続けているのです。